日本の古武道は、平安末期から鎌倉時代、室町期にかけて、自分の身を守る「護身術・闘争術」として生まれました。その後、徒手によるものは柔術を中心に、武器を用いるものは剣術を中心に発達し、武術隆盛の江戸末期には、各藩内のみに秘伝された「御留流」を中心に、弓術五十二、剣術七百十八、槍術百四十八、柔術百七十九もの流派があったと伝えられています。
明治期以降は、廃刀令が出されて武士階級が崩壊し、新政府が近代的な軍制を採用したこともあり、伝承の危機に瀕しました。そんな時代の変革期にあっても、歴史と伝統に支えられた気概のある流派は努力研鑽を重ね、混乱の昭和期をも乗り越えて、今日までその道統を守り、古武道の技と心を伝えてきました。
そんな中、昭和五十三年(一九七八)二月十九日に日本武道館で第一回全日本古武道演武大会が開催されることとなりました。これに前後して、多くの関係者から古武道に関する中央機関設立の声が高まり、それを受けて財団法人日本武道館が中心となり、古武道各流派の代表者に有識者を交えて協議機関を設置し、昭和五十四年(一九七九)二月十七日、古武道関係者の長年の夢であった古武道全国統括機関「日本古武道協会」が誕生しました。
古武道が、現行武道の母体であることは論をまたない。現下、世界に拡がる武道振興の波の中にあって、古武道の心技は、世界に類を見ない、日本固有の貴重な国技として高い評価を得ている。
古武道は、東洋哲学並びに、わが国肇国以来の神道思潮、国学思想とも深い関わりを保ちつつ、日本民族の啓発、開明に多大の寄与を続けてきた。また、古武道の伝統は、現行武道に伝承され、今や世界的な関心の対象となっている。このような趨勢にもかかわらず、古武道の統轄機関が存在しないため、各流派の交流、演武の公開、保存振興の具体的措置、学術的研究、伝承者の養成研修、生涯教育への積極的参加など、数多くの目標を必須のものとしながら、期待する成果を得られぬままにある。
急激かつ深刻な社会的変革が現下世界の風潮となっており、この中にあって、日本国民もまた、目指すべき信條の指標に迷い、特に青少年の精神的荒廃と体力、気力の衰退が憂慮される折柄、この古武道精神と技法の保存振興こそは、現行武道の振起と相応じて、ひろく国民教育に寄与するところ多大なものがあることを確信する。
ここに古武道の統轄機関を設置し、国民の期待と支持のもとに、関連諸機関、諸団体の援助と連繋を得て、所期の目標達成に一丸となって邁進せんとするものである。
設立発起世話人 | 石田 一郎 | 設立発起世話人 | 清野 武治 | |||
同 | 石田 和外 | 同 | 工藤 雷介 | |||
同 | 今村 嘉雄 | 同 | 小沢 武 | |||
同 | 植芝吉祥丸 | 同 | 小谷 澄之 | |||
同 | 江里口栄一 | 同 | 竹内 善徳 | |||
同 | 老松 信一 | 同 | 富木 謙治 | |||
同 | 大島 功 | 同 | 仁藤 正俊 | |||
同 | 大森 曹玄 | 同 | 早川 勝 | |||
同 | 小笠原清信 | 同 | 古川 鉄美 | |||
同 | 加藤 武徳 | 同 | 細川 熊蔵 | |||
同 | 加納 武彦 | 同 | 山川岩之助 | |||
(順不同) |
昭和五十四年二月
本協会では、設立以来、古武道の保存振興を目的に、日本古武道演武大会・古武道記録映画製作・古武道功労者表彰・刊行物発行などの事業を行っています。
●日本古武道演武大会 | ●日本古武道技術向上演武大会 |
●その他国内大会 | ●国際交流事業 |
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記念式典・祝賀会の翌日には、第42回日本古武道演武大会を開催しました。全国各地に伝わる古武道35流派が日本武道館にて伝統の技を披露し、長い歴史に裏づけられた古武道の「技と心」を伝え、来場者約3,000人を魅了しました。
・日時:平成31年2月3日(日)
・場所:日本武道館
・出場流派(演武順)
小笠原流弓馬術、関口新心流柔術、鞍馬流剣術、竹生島流棒術、柳生心眼流甲冑兵法、竹内流柔術腰廻小具足、當田流剣術、琉球古武術、兵法二天一流剣術、諸賞流和、初實剣理方一流甲冑抜刀術、心形刀流剣術、肥後古流長刀、関口流抜刀術、柳生新陰流兵法剣術、本體楊心流柔術、示現流兵法剣術、根岸流手裏剣術、沖縄剛柔流武術、澁川一流柔術、佐分利流槍術、天真正伝香取神道流剣術、伯耆流居合術、大東流合気柔術、楊心流薙刀術、溝口派一刀流剣術、無比無敵流杖術、天神真楊流柔術、無雙直傳英信流居合術、琉球王家秘伝本部御殿手、天然理心流剣術、田宮流居合術、荒木流拳法、北辰一刀流剣術、陽流砲術
*大会の様子はこちらからご覧になれます。
設立四十周年記念事業の一環として、日本武道館の全面協力の下、『日本古武道協会四十年史』(DVD2巻付・A4判・箱入・352頁)を令和元年6月に刊行しました。
本書は、当協会の40年の歴史と組織・事業を、貴重な資料と豊富な写真・映像で振り返るとともに、加盟全77流派の全容を網羅した構成となっており、古武道の一千数百年に及ぶ長い歴史に立って、40年にわたる歩みを集大成した記念誌です。
協会役員・加盟流派の他、全国の都道府県知事や都道府県・政令指定都市教育委員会教育長、全国主要公立図書館等に、約3,800部を無償配布しました。
*本書に関するお問い合わせは日本古武道協会事務局(03-3216-5114)まで。
~目次~
・刊行の辞 高村 正彦 日本古武道協会会長
・刊行にあたって 臼井日出男 日本古武道協会理事長
・口絵(カラーグラフ24ページ)
第一章 日本古武道協会四十年の歩み
第一節 歴史 第二節 組織 第三節 事業
第四節 写真で綴る四十年の歩み
第二章 四十周年記念特別座談会
「日本古武道協会設立四十周年 歴史、現状と課題」
高村 正彦 日本武道館・日本古武道協会会長
臼井日出男 日本武道館・日本古武道協会理事長
三藤 芳生 日本武道館・日本古武道協会常任理事
小笠原清忠 小笠原流弓馬術第三十一世宗家
加藤伊三男 尾張貫流槍術第十三世継承者
竹内藤十郎 竹内流柔術腰廻小具足相伝家十三代目
吉川 常隆 鹿島新當流剣術第六十五代宗家
森 恕 大東流合気柔術琢磨会総務長
第三章 日本の古武道
第一節 日本古武道の魅力 横瀬知行(古流武術研究家)
第二節 剣術の系譜 長尾 進(明治大教授)
第三節 柔術の系譜 藤堂良明(筑波大名誉教授)
第四章 日本古武道協会加盟流派紹介
第一節 加盟流派全国分布図 第二節 加盟七十七流派紹介
第五章 資料編
第一節 会則 第二節 役員名簿・組織図 第三節 加盟流派一覧
第四節 年表 第五節 事業一覧 第六節 古武道功労者一覧
第七節 古武道関連書籍
編集後記 三藤 芳生 日本古武道協会常任理事
特別付録DVD
第一巻 日本古武道協会四十年の歩み
第二巻 加盟七十七流派紹介